青沓の旅とその他の日記

とあるの旅好きのしがない日記

JOKERを見た感想。

こんにちは、青沓(あおと)です。

 

先日、映画の「JOKER」を見てまいりました。

10月4日公開。あまりアメコミヒーローものは見ないのですが、興味が沸いたので前知識なしに行った次第です。

 

映画のあらすじとしては、アメコミの有名作「バットマン」の悪役である「ジョーカー」の誕生するまでの所謂「前日譚」ですね。

 

鑑賞後、ネットでの評判を見るとハンナ・アーレントが「イェルサレムアイヒマン」の中で述べている「悪の陳腐さ」に類似した感想を抱いている人が多いような印象でした。

ここで「イェルサレムアイヒマン」について少し。

 

アイヒマンは、NSDAP*(ナチス)政権下でのドイツ国支配地で行われたユダヤ人大虐殺(ホロコースト)に深く関与した親衛隊将校です。第二次世界大戦終戦後はアルゼンチンで一般人になりすまして逃亡を生活を送っていましたが、イスラエル諜報機関により見つかり連行され、裁判にかけられ死刑となります。

 

*NSDAP国家社会主義ドイツ労働者党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei)の頭文字略称で、一般的に「ナチ」(単数形)「ナチス」(複数形)で呼称されますが、そもそもこの呼称自体が当時のドイツでの対抗勢力の蔑称であり、一定の主観が入ってしまうため中立性の観点から個人的にNSDAPと呼ぶことにしています。

 

ドイツのユダヤ人女性哲学者ハンナ・アーレントは、イェルサレムで行われたアイヒマンの裁判を傍聴し、ホロコーストがいかにして行われ、またその中でアイヒマンがどのような立場、役割だったのかを克明に記録しております。

 結果、アイヒマンが極めて悪魔的で特異な思想のある大悪人なのではなく、ありふれた一般的な無思想な役人でしかないこと、むしろ、ユダヤ人社会の指導者層の中にもホロコーストの一端を担っていたことを指摘しました。

アーレントは血で血を洗う粛清の暴力革命の起源をフランス革命に求め、アメリカ革命、ロシア革命NSDAPによるホロコーストまでを含めた、全体主義とそれを達成するための破壊的衝動の歴史的必然性を説いています。

つまり、人民=社会が暴力を求めるのであり、その中でのアイヒマンは一つの役割をこなす極めて小さな存在でしかなかったのです。

 この言説をもとに行われたのが社会心理学の代表的な実験である「ミルグラム実験(=アイヒマン実験)」と「スタンフォード大学監獄実験」です。

ともに外形的な圧力から自分の役割を割り振れた人間は誰しもが残虐性を帯びた行動をとってしまうことを示しています。

 

そろそろ映画に話を戻しまして。

JOKER中のアーサーは2つの精神的な病気を抱えた人間ではありましたが、彼自身に常軌を逸した破壊衝動や殺人衝動があったわけではありませんでした。むしろ彼を取り巻く家庭環境や、ゴッサムシティに渦巻く社会全体の破壊衝動という環境的要因と、ふとした小さな出来事の積み重ねが、ついに彼を「ジョーカー」に『仕立て上げた』と解釈することは難しくないと思います。

つまりアーサーがたとえ死んだとしても次のジョーカーが出現する可能性は極めて高く(実際そのことを示唆する場面がクライマックスに出てきます)、誰しもが「ジョーカー」になりうるというところに行き着く訳です。

 

そういう意味で、JOKER中のアーサーと、アーレントが描き出したアイヒマンの人物像は極めて類似しており、この点のストーリーの奥行きの深さにこの映画の魅力を感じました。

 

まだまだ語りたいことは山々ですが、本日はこの辺で。